認定論文【統一場心理学及び量子脳メソッドによる NLP(神経言語プログラミング)の解析と応用】

※論文提出当時より研究が進み、現在の解釈等と異なる点が多々ございますが、
そのまま掲載させていただいております。ご参考になれば幸いです。

1、はじめに

クライアントに劇的な『変化』を起こしていた3人の天才セラピストを「徹底的に観察し、思考パターンや話し方、言葉の使い方や行動・しぐさを真似ることで天才の暗黙知を抜き出した(文献5 p.17)」NLPはセラピーの分野のみに留まらず、むしろ昨今は、自己啓発セミナーの1ジャンルとして定着した感がある。

「ミラーリング」「ラポール」などのテクニックや用語も各種メディアやビジネス研修などで一般的に使用されるようになり、NLPという名称は用いられておらずとも、自己啓発、コーチング、コミュニケーションスキル開発等に幅広く利用されている。

一方で「効果を実証するには不十分な経験的証拠しかないため、学術的な信頼性には問題があり、一般の社会科学からは広く無視されている(ウィキペディア)」という側面もある。

本稿ではNLPの代表的なスキル、ワーク、考え方について、心の原理を明確に表す統一場心理学の立場から解析し、その共通点等から導出される応用法あるいは差異に言及する。

2、統一場心理学の概要

統一場心理学とは、心の全貌を物理的なモデルとして描いた理論であり、内省的な実感・体験と科学的・論理的な仮説をすり合わせた統合理論である。

経験則の集積である従来の心理学・心理カウンセリング理論・コーチング理論から宗教・哲学に至るまでを統合的に捉えることが可能であり、理解するだけでも自然に心を整理する働きがある。

また、量子脳メソッドとは統一場心理学を実践的に扱うにあたり、理論に若干の補足をし、ワーク等を加え体系化したものである。

3、NLPの概要

NLPとはNeuro Linguistic Programming(神経言語プログラミング)の略で、ジョン・グリンダーとリチャード・バンドラーにより1975年に創始された。

3人の優れたセラピスト-フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法の創始者)、バージニア・サティア(家族療法の創始者の一人)、ミルトン・エリクソン(米国臨床催眠協会の創始者)の言語・行動パターンを考察し、そのモデリングテクニックを公式化したものである。

心「神経」と言語「言語」の基本的関係と、その相互作用がどのように人間の身体と行動に影響するか「プログラミング」を解明することを目的としている。

3、用語解説

具体的な考察に入る前に、本稿の理解に必要と思われる基礎的な用語を抜粋し、簡単に説明する。

 

〔統一場心理学用語〕

イメージ情報:私たちが心の中で扱っている「イメージのような情報」。

ここには質感や情感などの実感・体験が含まれており、全体で5次元の構造をしている。

イメージ情報理論:そのイメージ情報の物性を論じた理論で、私たちの心が必然性に従って変化していくことを示す。

内在者:心の中にある、それまでに出会った人のイメージ情報。身体が細胞から作られているように、私たちの心の大半はこの内在者が細胞のように集まってできている。

内在者理論:その内在者が、私たちの日常生活とどのように関係しているかを論じた理論

5次元:空間の立体軸(3次元)〈空間軸〉に、〈質感軸〉(時間軸)と〈情感軸〉を加えた世界。心が実感・体験を伴っている様子を説明するために必要な次元数。

5次元仮説:心の実感・体験という現象を明確に説明するために、〈空間軸〉〈質感軸〉〈情感軸〉に分けて考える理論。イメージ情報理論を支える仮説。

ストーリー:過去の記憶を思い出したり、目の前の事実と結び付けて考え事を判断する、心の部分

プロセス:外界から伝わってきた3次元的な刺激を心で扱える情報(5次元のイメージ情報)に変換する、心の部分

 

〔NLP用語〕

アンカーリング:ある一定の外的刺激(あるいは内的刺激)が特定の内的反応を引き出すこと。

ラポール:信頼や友愛、相互理解の感覚。より正確には無意識レベルでのつながりが形成されている状態。波長が合っている状態。

カリブレーション:進行中のコミュニケーションで相手の反応を読み取る方法。相手の状態をよく観察し、言語と非言語との反応の違いや、その特徴を見分けて、相手の心の内や状態を理解すること。

アソシエート:ある特定の内的経験を自分自身の目で、VAKの知覚体験を「同化」しながら経験すること。反義語はデソシエート(自分自身を外から見る)。

表出体系:視覚(V)、聴覚(A)、感覚(K)、嗅覚(O)、味覚(G)の五感。

サブモダリティ:五感を構成するさらに細かい(従属)要素。視覚体系でいえばそれを構成する明るさ・色・コントラスト、大きさ、距離など

ステート:状態。ある人の行動の源になっている継続的な心的および身体的条件全体。

部分(パート):なんらかの重要な心理的体験によって創り出されたサブパーソナリティで、無意識な部分。意識部分と縁のない分離した機能を持ち、独り歩きし始めている部分。内的不一致がある場合、個人的葛藤の原因となる。(文献7 p.393)

4、部分(パート)と内在者

統一場心理学では、心はイメージ情報が細胞のように集まってできており、その大半を占めるのが人間のイメージ情報=内在者としている。

そして、嫌いで拒絶している人物の内在者は使いにくいことになり、「もし私たちが有能な人物を嫌いになったらその人の知識や知恵は、とても使いづらいものになってしまう」(文献1 p47)こととなる。これに関しては知識や知恵に限らず、感情や行動に関しても同じことが言えると考えられる。

「心が適切に働きにくくなるのは、心が分断することによって、分断した部分を認識できなくなるか、分断した部分が『私』の中心になって普段の自分を作っていた意識現象を使いにくくなるかの二つの場合である」(同 p47)

また、NLPでは心全体の中でも別々の感情や考え方を持っている【部分(パート)】があると想定し、迷いや葛藤に対してアプローチをする。

「NLPの基本的なアプローチに、六段階リフレーミングがあります。このモデルは、ある一つの部分との意思の疎通を図り、その部分の意図を明確にしたうえで、その意図を達成するための行動の選択肢を3つ考えだすもので(中略)ところで、六段階リフレーミングは次の仮定に立っています。つまり、人には、自分がしたくないと思っていることをさせたり、あるいは、自分がしたいと思っていることをさせない部分がある、ということです。」(文献3 p52)

この【部分(パート)】とは統一場心理学では【内在者ブロック】と呼ぶものと同一であり、特に【普段の私】に統合されていないものだと考えられる。

人間は誕生から出会った人間の情報をデータとして蓄えるとともに、それを自分を動かすプログラムとする。仲の良い父親と母親など調和しやすいものは内在者チームとして結合し、学校や家などそれぞれの環境や場面において意識が位置するチームごとに感じること、行動すること、吸収する情報によってブロックとして拡張していく。

思春期頃には内在者ブロックは統合されていくが、【自我状態の内在者チーム(普段の私)の“思い込み”を守る上で都合の悪い内在者は、そのチームから拒絶されてしまう。

上記の「自分がしたくないと思っていることをさせたり、あるいは、自分がしたいと思っていることをさせない部分」とは、【普段の自分】から分断した【内在者ブロック】であり、そちらに意識が移動することにより【普段の自分】と相容れない行動や思考が起こり、自己嫌悪や葛藤へとつながることとなる。

NLPの代表的なワークである【六(n)段階リフレーミング】はこの【内在者ブロック】を【普段の自分】に統合する方法であると言える。以下に手順を簡略的に示す。

 

  • 問題があると思う行動を特定する
  • この行動を発生させている「パート」とコミュニケーションを成立させる
  • その肯定的意図を見つける
  • 創造的なパートにアクセスする
  • そのパートを委ねる
  • エコロジーをチェックする   (文献7 p98)

 

1、2、3の段階でアクセスをしているのが問題を起こしている【パート=内在者ブロック】(Aとする)である。このAは【自我状態の内在者チーム(普段の自分)】(Xとする)と分断しており、Xから意識が移動すると自由に扱うことができない。そして3の後半で代替的な方法の有無の問いかけを経て、4では新しい考えをもって浮上してくる【内在者ブロック】(Bとする)にアクセスする。この浮上してきたBはXの中にはないが、調和度の高い【内在者ブロック】であり、Xとつながったまま意識を移動させることが容易にできるものと考えられる。そして、AにもともとXに調和していたBの提案を受けさせることで、AをXに統合し、その後6で統合されきっているか、拒絶感がないかを確認する。ただし、本来このワークは行動の変化を目的として行うので6で周囲に対する影響が悪であるなどの判断がされれば拒絶が起こってしまう。拒否されていた内在者が統合されれば、その内在者の意図や行動は自由に扱えるようになるため、あくまでもワークの目的を内在者の統合に置くべきである。

また、ひとかたまりの【パート】としてではなく、それを構成している【内在者】が誰なのかを特定することにより、ワークの効果も向上させることができる可能性があることも内在者理論から導きだされる結論である。

(ただし、内在者を明確化することにより強烈な恐怖体験等が表象することも考えられるため注意を要する)

その他にも【コア・トランスフォーメーション】【親と和解する】等のワークでも「体の中に完全に取り込む」、「一つのパートにまとめる」といったイメージを活用しており(文献7)、「分断された部分をつなぎ合わせ融合することができれば、あらゆる心因性の問題は解決できる」(文献1 p41)とする統一場心理学の原理原則に照らし合わせても、高い効果性が見込めることは明確である。

このようにNLPに於いても自分の心が一つの塊でなく複数の人格で構成されていることは想定されており、それを“統合する”ことで解決できることが解明されている。

ただし、その人格(部分・パート)が何で構成されているかという知見は得られなかった。ここにNLPと統一場心理学との見解の差が見られる。

5、4Te(アップタイム)・4Ti(ダウンタイム)とストーリー/プロセス

NLPと統一場心理学には【4タップル】と【ストーリー+プロセス理論】という非常に関連性の高い概念が存在する。

「NLP用語の『4タップル:4T』は、ある個人が特定の瞬間に持っている内的経験を表出するもので『4T=VAKO』の方程式が使われます。この式は、人間はどの特定の瞬間においても、視覚、聴覚、触覚(フィーリング)、臭覚(味覚が含まれています)から成り立っている一式の経験を持っていることを意味します。」(文献2)

また、外部世界から入ってくるデータだけから成り立っている、外部生成の要素【4Te】と内部の記憶からくるデータだけから成り立っている内部生成の要素【4Ti】のいずれかから構成されることが可能であるとされる。

また、そのいずれの状態が優先されているかを、アップタイムとダウンタイムという言葉で表現されることもある。

アップタイムとは「注意や感覚が外の周辺環境に向いている状態で、感覚の伝達経路がすべて開いて敏感になっている」(文献7 p387)状態であり、ダウンタイムは「感覚的な気づきの状態ではなく“鎮まった”心の中で思考や記憶や気づきを見、聞き、感じている状態。注意が内面に集中している軽いトランス状態」(文献7 p392)である。

4Te/アップタイムは「ノーマインド、周辺視野、通常意識、セルフ2、内的対話なし」、4Ti/ダウンタイムは「マインド(トランス)、中心視野、変性意識、セルフ1、内的対話」等の表現や事象で表されることもある。

対して、統一場心理学の【ストーリー+プロセス理論】《注1》も外界からの情報を自己の内部の情報への変換する仕組みを明らかにしたもである。

まず、統一場心理学では心は〈空間軸〉〈質感軸〉〈情感軸〉の5次元・3軸で構成されていると仮定する。

そして「5次元のシステムである私たちは、3.5次元《注2》の外界をそのままでは認識できない(感じ取れない)」(文献1 p269)ことから導出されるのが、五感からもたらされる3次元的な刺激に対応するイメージ情報を補填し意味を持たせている領域【プロセス】を介し、過去に蓄積した膨大な経験や知識を動員して、新たに得られたイメージ情報を整理する領域【ストーリー】で考察するとする【ストーリー+プロセス理論】である。

【プロセス】は今、刻々と過ぎていく時間とともに存在し、積極的に全てを受け入れており、【ストーリー】は過去の世界の中で論理や好みによって、様々な物事を判断している。

以上から、【4Te】と【プロセス】、【4Ti】と【ストーリー】には共通点、関連性が認められることが分かる。

過去の記憶を元に構成される【ストーリー】の混乱により起こる「イメージ情報の分断を形成してしまうと、思い込みや決め付け、偏見、様々なトラウマなど(中略)様々な問題」は「その混乱した構造の上に構築されているストーリー自体には解決の難しい場合」が多く(文献1 p274)分断され問題を抱えた【ストーリー】を再編するためには、無条件に外界からの刺激を受け入れ、イメージ情報に変換する【プロセス】の機能が活用できる。

ほとんどの心理支援には【プロセス】が活用されているが、NLPにおいても【ブレイクステイト】と呼ばれる今見えているもの、聞こえているもの、触れている感触などに意識を向けて、外的な五感に意識を切り替える簡易的な手法から、【ニューコードゲーム】と呼ばれる現在の五感で感じることに多大な集中力を要するワークを利用することで、ハイパフォーマンス状態(ノウナッシングステート)を実現するものが存在する。

「NLPのことがよくわかり使える本(文献5)」には著者の算数の苦手な小6の娘さんが上記の【ニューコードゲーム】を行った後に宿題をやりとげ、算数が嫌いであるというとらわれから解放されたエピソードが記されているが、これは【プロセス】の領域からもたらされた“算数”というイメージ情報が【ストーリー】の領域で拒絶され分断されていたものを、全てを積極的に受け入れる【プロセス】の領域に意識現象が位置する状態で“宿題をする”という処理をしたことで、分断されていた【ストーリー】を再編し整えたのである。

このように、積極的傾聴などの心理支援と同じくNLPでも【プロセス】の機能は活用されている。ただし、NLPでは脳の状態の変化として捉えられており、「ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンのバランスが取れた状態」「左脳が右脳を制約している」(文献2)等の説明がされている。この心と脳の関係については第9節にて詳細に考察する。

 

《注1 3.5次元とは「空間の3次元に4次元そのものではなくて、時間の進行を通じて間接的に4次元目が現れるという意味」(文献1 p273)である。》

《注2 NLPで使われるコンテント/プロセスという言葉とは無関係》

6、表出体系と5次元(3軸)、そして言語

NLPではコミュニケーションにおいて相手がどの表出体系(視覚:V、聴覚:A、触覚・体感覚:K、臭覚:O、味覚:G、近年ではOとGはKに含むのが一般的)を優先して使っているのかを見極め、それに合わせた情報伝達をすることで、より相手が情報を受け入れやすくなるよう注力する。

相手がV、A、Kのどれを優先して利用しているかを見極める方法としては、呼吸や視線、言葉遣いなどがあるが、その中でも例えば「Aタイプは論理的」「Kタイプは感情に依存する」といった特徴に着目し、ここでは優先表出体系と心の5次元構造との関係について考察する。

統一場心理学では、心に描かれるものは縦・横・高さの3次元〈空間〉に、五感を通じて感じる要素である〈質感〉、その質感に意味づけを与える〈情感〉で構成される5次元だとする仮説を立てている。

質感は音や光という波が一定時間観察したときにはじめて現象として生じることでも明らかなように、時間の長さにより実感されるものであり、情感は“自分にとっての意味”や“自分との関係性”を位置づけ、周囲の世界を認識できるようにするものである。

この5次元・3軸(空間軸・質感軸・情感軸)と優先表出体系による心的特徴には深い関連があると考えられる。

まず、V(視覚)優位タイプであるが、これは〈空間軸〉優位タイプと言える。人間にとって縦・横・高さに関する情報量が一番多いのは視覚であり、「効果を重視する」「結果にこだわる」といった空間、あるいは転じて物質への興味が強いという特徴とも合致する。

次にA(聴覚)優位タイプは〈質感軸〉優位タイプと言える。音そのものの高さや質などは他の五感で感じる要素と体感としては大差がないが、より強力な意味づけをするため、つまりメロディーや言語として認識するためにはより長い時間を必要とするからである。また、「論理的」という特徴にも合致する。(論理とは「質感軸に沿った継時変化を普遍的に表現したものか、それを元に応用したもの(文献1 p23)である)

残るK(触覚、体感覚)優位が〈情感軸〉優位と言える。感情の変化には胸が締めつけられるような感じ、肩に力が入る等の体感覚が同時に現れる、あるいは姿勢や呼吸の変化が気分を変えることなどからも明確である。

NLPでも体性感覚と感情の関係は言及されており「感情的に傷つくということは、いくつかの体性感覚の複合体を経験すること」(文献4 p47)とされている。

どの感覚も時間の経過により現れる【質感】であり、意味づけのない電気信号であるが、【プロセス】を経て5次元情報として意識現象にもたらされた際に自分にとって安定させやすいものが優先されることでタイプが分かれると考えられる。

また、「統一場心理学の考え方(文献1)」には質感タイプと情感タイプの2つにプロセス優先とストーリー優先をかけ合わせた4タイプが示されているが、後に「量子脳メソッド」が開発された際に、空間軸も質感軸・情感軸と同等の重要度で扱われることが加えられたこともここに補足しておく。

また、特筆すべきこととしてNLPでは五感(VAKOG)に加え「デジタル体系」が加えられることがある。「デジタル体系」とはつまり「言葉記号とそれらの使われ方を支配する法則の全体」(文献4  p45)で構成された単一の表出体系であり、五感から成り立つ体系をアナログの性質とし、その性質を持たず(感覚器官のいずれにも直接関連していない)、他の表出体系を全て表出できる唯一の体系が言語であるとされている。

5次元仮説から言語を捉えても同じく、「椅子があり、その上にクッションがある。」といったように「空間」を示す(表出する)ことも「2に3を加えると5になる。」と「論理≒時間(経過)」を示すことも、「悔しくてたまらない」と「情感」を示すこともできることが分かる。

このことから言語を利用して、心で実感・体験したことを表出することが可能であることが分かるが、決して実感・体験が言語で作られているわけではないことは指摘しておきたい。

それは一流の棋士が言語による思考を用いず瞬間的に最善手を導きだし、それを盤上に表すことがしばしばあることからも明確であろう。最善手は瞬間に起こった意味づけ=「情感」であり、その「情感」を言語で表出することは可能であっても、言語で過程を考えていなかったものをその瞬間に言語で表出するのは不可能である。(後からで言葉を利用して分析することはできるが。)

とはいえ、逆に考えれば言語が「空間」をしめし「質感(論理)」を示し、「情感」を示し、実感・体験が表出できるとするならば、それが他人から表出されたものであっても自分から自分に向けて表出されたであっても心に与える影響は大きいことは疑う余地はない。

この「言語」に着目・分析し実用化したNLPの功績は多大だと言えよう。

7、ラポールと主体移入

ラポールとはフランス語で「関係」を意味し、信頼関係や「互いに親しい感情が通い合う状態。打ちとけて話ができる関係。心理療法などで面接者と被面接者の間に必要とされる(三省堂 大辞林 第三版)」とされるが、現在のNLPにおいては「いいも悪いもなく、無意識レベルでのつながりが形成されている状態」(文献5 p147)とされている。

かつてはラポールを形成するために鏡映しのように相手の動きを合わせる技術である【ミラーリング】を利用することが推奨されたが、露骨な【ミラーリング】は相手に猿真似として受け取られ逆効果となるため、現在では推奨されていない。

現在のNLPでは【マッチング】【ペーシング】【リーディング】の手順でラポールを確立させるとする。(文献2)

 

  • マッチング

クロスマッチング-相手のうなずくペースに合わせて、テーブル上の右手に持ったペンでテーブルをコツコツと軽く叩く、といった相手の提示している行動の要素とは別の次元の要素でマッチングを試みる

ミラーリング-相手をそっくりそのまま真似するのではなく極微筋肉動作で合わせ、相手に分からないようにフィードバックする。

  • ペーシング

コミュニケーション相手の内的地図にマッチングするために、その人の主な言語パターンと非言語の行動パターンを使って、その人にフィードバックし返す。

・内容を合わせる

・声の大きさ、スピード、トーン、リズム、呼吸を合わせる

・言葉(キーワード、優先表出体系、バックトラック、パラフレーズ)で合わせる。

バックトラックとはオウム返しであり、相手が言ったことをそのまま相手に

伝えることであり、パラフレーズは要約であり、チャンクを上げて気持や意図を伝えることが肝要である。

露骨なバックトラックはミラーリングと同様相手に違和感・拒絶感を与えるので注意が必要。

  • リーディング

自分自身の言語と行動パターンを目的に応じて微妙に変えることによって、相手を自分の行動または思考プロセスに誘導しようとすること。

(以上、文献2、文献5より)

以上の手順では1で波長を合わせるきっかけをつくり、2で同調し、3でより強固にしていると考えられる。

一方、統一場心理学には【主体移入】という技法がある。

「感情移入という現象を積極的に徹底していくと、主体移入となります。主体移入というのは、単純で強い感情だけでなく、もっと複雑な情感、表情や身体の動きなど、全てを自分のことのように感じるもの」(文献1 p289)というのが概要であり、具体的な方法は「目の前の人をじっと見て、その人のことば、表情、仕草などをそっくり自分がやっていることのように感じてみる」(同 p289)というものである。

そのトレーニングの方法として以下の手順が示されている。

  • ホワイトボードや紙に言葉(1、好き、綺麗等 2、嫌い、バカ等 3、赤、青等)を書いておく。
  • 二人一組になって膝が着く位に近づいて座る。
  • 相手の目を見つめながら、Aさんはランダムに先に書いておいた言葉を、2秒に一つ位のゆっくりとした速さでBさんに伝えます。
  • Bさんは、Aさんの言う言葉を理解したら、可能な限り早く繰り返す。
  • これを1分ほど、いろいろな言葉を言い合ってみる。
  • 交代して、同様のことを繰り返す。

 

NLPの【マッチング】【ペーシング】等の技術は相手とつながることに目的を置いており、「統一場心理学の考え方(文献1)」に示されている【主体移入】は自身の心を統合することに目的が置かれていることや、上記の具体的方法やトレーニングの差異から一見相反するように見えるが、実際に起こるのは同じ現象であり、同じ結果を目的としている。これは統一場心理学の「主客合一」という考え方から導き出される結論である。

「主客合一」とは、感じる側(主体)と感じられる対象(客体)が同じであることを言い、「私たちの認識したものごとは、即ち私たち自身であり、私たち自身は、即ち私たちの認識した世界であるということ」(文献1 p19)である。

つまり「ラポール」が形成されている状態では、相手を自分として感じられるということは相手=自分であり、自分を相手として感じられているということは自分=相手であると言える。

また、より深く主体移入するには「意識現象の中心を高度にプロセスに置く必要があります。」(同 p289)というのも言及しておく必要がある。

NLPでは眼球動作パターンや優先表出体系など相手の状態を把握するための知識が豊富にありすぎるために、コミュニケーション時にそれを見極め、それに合わせることに終始してしまうという罠がある。これは「ストーリー」の領域、つまり自己の過去の情報へアクセスしている割合が多すぎるということであり、相手に移入できていないということである。

あくまでも「カリブレーション」は相手に移入(同調)するための足掛かりであり、目的と手段のすり替わりには留意が必要であろう。

そして、究極的には主体移入により相手の優先表出体系等も自分の感覚として知り、自分に調和するコミュニケーションをとること=相手に調和したコミュニケーションとすることこそ目標足りえるのではないだろうか。

8、NLPと統一場心理学、脳と心

ここまでで統一場心理学の原理からNLPを解析し、場合によってはその差異を確認してきた。

「NLPは実践のプロセスであり、理論ではありません。NLPは成果、結果が出るプロセスだけを扱います。誰かの考え方や価値観など、コンテント(内容)の押し付けをしません。」(文献5 p18)と前提しており、また3大定義として

 

  • NLPはコミュニケーションの心理学である
  • NLPは実用心理学である
  • NLPはコンテントフリー方法論である   (文献2)

 

としている。

こうした立場をとるのは開発された地であるアメリカの実用主義的価値観の影響とともに、経験則の集積である従来の心理学の提唱する“理論”のあやふやさに対するアンチテーゼであろう。

しかし、NLPは理論でないとはいえ、一つの体系であることは間違いない。

その名称である「神経言語プログラミング」に統一場心理学との決定的な考え方の差異が表れている。

すなわち“神経”つまり脳神経系の電気的・化学的な変化を心そのものとした前提である。

これが、脳神経系の変化が心そのものでないと前提する統一場心理学との決定的な差異である。(全体で5次元の構造をしたイメージ情報が量子状態であるとしており、現状では梅沢博臣・高橋康により提唱され、保江邦夫・治部眞里によって引き継がれた“量子場脳理論”が最も妥当な仮説であるとしている。)

NLPにおいてこの心=脳神経系の前提がもっとも如実に表れているのが「アンカーリング」と呼ばれるNLPの代表的な技法である。

「アンカーリング」とは五感と生理的な反応(特に体感覚・感情)を結びつけ、引き出すプロセスであり、例えば何らかの状態を得るために以下のような手順で「アンカーリング」を行う。

 

  • 手に入れたい状態、行動、反応を特定する
  • 求める状態をできるだけ具体的に表現する
  • 状態をイメージの中で体験する
  • アンカーリングを行う(手首を掴む、指を鳴らす等)  (文献6)

 

また逆にできてしまったネガティブなアンカーをつぶしたり、上書きするといった手法もある。

これはつまり、記憶(実感・体験)に「空間軸」の変化を関連させることで、その記憶を引き出していると考えられる。

脳神経系=心の前提に立てば、実用主義のもと好ましくない感情や記憶とのつながりを「アンカー」によって都度切り替え、ネガティブな記憶につながる経路を通らなくて済むので“実用的な”問題は起こらないという結論に至るのも無理からぬことである。

しかし、心が脳神経系そのものとは別であるとする統一場心理学の立場からは「アンカー」を使い経路を変えたとしても、好ましくない記憶、つまり分断された心の部分は統合されないことになり、そこに含まれた能力が使えないままになることや、別のきっかけで記憶が甦る可能性も想定される。

だが、決して「アンカーリング」のテクニックが無意味なわけではない。むしろ「自我状態の意識現象」にその時必要なある特定の「内在者」の能力を加えたいといったときには強力に効果を発揮するであろう。

 

以上のことから、統一場心理学が現状のNLPの仮定を崩すことはあるかもしれない。しかし、統一場心理学〔心を物理的に描いた理論-経験則でなく普遍的な原理を描いた理論〕はむしろコミュニケ―ションを強化し、実用性を高めることに寄与することで、NLPの原則をより強固にし有用性を高める可能性があることをここに提言したい。

 

10、おわりに

私にとって統一場心理学とNLPを同時に学べたことは望外の幸運であった。私個人の実感なので証明することは難しいが、明確な原理を理解したうえでNLPのワークを実践したりすることでより“自分のものになる”ことは間違いないと言える。もちろん、高いレベルで身に着けるのには修練が必要だが、それでも分かっているのといないのでは雲泥の差があると思っている。

本稿では統一場心理学の原理をもとにNLPを解析したわけだが、決してどちらかが上だとか優れているというわけではない。(当然ながら他の心理学と比しても同じである。)統一場心理学は心の動きと構造を総合的かつシンプルに例外なく表すことができる唯一無二の理論であるが、実践的方法論では発展途上であり、他の心理学、心理療法、コーチング手法等に一歩譲る部分も少なからずある。特にNLPは世界中で実践されており、実績も豊富に残していることについては素直に敬意をはらうとともに、良い手法や考え方は大いに利用し、また広まってほしいと願う。

そして、人々が統一場心理学を学び、理解することでNLPをはじめ各種の心理学や自己啓発、さらには文化・芸術に至るまでをより豊かに楽しみ、使いこなすことができるようになること-〔それは“人類の進化”である〕、その一端を少しでも担えることが私の誇りである。

 

参考文献

  • 吉家重夫『統一場心理学の考え方』知道出版
  • オフィス後藤主催 『GTNLP プラクティショナー認定コース マニュアル』
  • R・バンドラー、J・グリンダー『リフレーミング 心理的枠組の変換をもたらすもの』星和出版
  • バイロン・A・ルイス、R・フランク・ピューセリック『マジック オブ NLP』メディアート出版
  • 松島直也『NLPのことがよくわかり使える本』明日香出版社
  • 梅本和比己『面白いほどよく分かる!NLPの本』西東社
  • L・マイケル・ホール『NLPハンドブック』春秋社
  • 畦昌彦『NLPカウンセリング・システムセラピー入門』春秋社
  • ロバート・ディルツ『天才たちのNLP戦略』VOICE